-------------------------------------------------- PBeM『VOiCE』第6回リアクション 06-X 物語の終りとジュブナイルワンダーランド -------------------------------------------------- ●Why do the stars glow above?  友だちに会いに行くのならね、と母は言った。おみやげを持っていかなくちゃ。  なにがいいの、と尋ねると、なんでもいいのよと答えた。  なんでもいいよじゃわからないよ、と言うと、気持ちが大事よと返された。  結局、腑に落ちないことに変わりはないが、ともかくおみやげが必要なのだ、と幼い頃の葉柴芽路は思った。今でもそう思っている。友だちと会うということは、おみやげ選びでもあるのだ、と。  がさつだの男っぽいだの、クラスの男子からはよく言われてしまう芽路だったが、それだけに、マナーや行儀作法も勉強しているし、なるべく気を遣うようにしているのだ──ただ、時と場合によって、そうでもない時があるというだけで。  だから、地球の人──そしてM/ヘルヴァがふたつの丘にやってきたと知った時、まっさきに思ったのが、「おみやげ、何にしよう?」だった。  ぐるぐると考えて、ようやく思いついたのが、「古代遺跡」でずっと育てていたノイバラだった。ふたつの丘の原生の花だし、きっと喜んでくれるだろう。  だが、そこで芽路はふと考えこんでしまう。 「これだけで足りるかなぁ」  まだ見ぬM/ヘルヴァの顔を思い浮かべながら、芽路は考える。自宅のまわりは報道陣でいっぱいだが、芽路には大して気にならない。なかば強制的に、市役所内の宿泊施設で寝泊まりするはめになっても、芽路の気がかりはM/ヘルヴァが喜んでくれるかどうか、それだけだった。  そして、ある日ふとひらめいた。 「あたしだ!」  おみやげが足らないなら、足せばいい。  単純な話だ。ふたつの丘で生まれ育って、これまでの思い出や芽路が見聞きしたことすべて、M/ヘルヴァへのおみやげにしよう。  そう考えると、明日の会談が楽しみで仕方ない。芽路は、自分が眠れないとわかっていても、そそくさとベッドに滑り込んだ。そして、ノイバラを受け取ってくれるだろうM/ヘルヴァのことを考えながら、まぶたを閉じた。 ●Why does my heart go on beating? 「本はお好き?」  そう問われたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。驚いて顔をあげたのは、声をかけられたことだけでなく、そんな問いかけを受けたからかもしれなかった。  ジャンゴ・リーボリックは、このところ毎日のように図書室に通っている。こまめに本を借りていき、きっちり読んで返す。その繰り返しだ。そのせいだろうか、司書教諭のヴィヴィアン・フェイにも顔と名前を覚えられたのだろう、何気ない様子で話しかけられたのだ。 「えっと、好き、かも」  好きかどうかといわれると、好きでもないような、そうでもないような、いまいち答えが定まらない。 「でも、知らないことがわかるようになるのは、好きです」  本の話じゃないからまずかったかな、と内心ジャンゴが思っていると、ヴィヴィアンは優しく微笑んだ。 「まあ、素敵」  褒めてもらったのだろうか。ジャンゴはなんとなく気恥ずかしくなって、口を開いた。 「その、かなえたい夢があって、そのためにはわからないことを少しでも減らしたくて……勉強は苦手だけど、でも勉強は必要だから」  隠者の導きがある──そう言ってくれた少女の顔を思い出しながら、ジャンゴは言った。導きがあるとはいえ、歩むのはジャンゴの足であり、探すのはジャンゴの手だ。何もかも隠者に頼ることはできない。だからこそ、わからないことを少しでも減らしたかった。 「テスト勉強だけど、でも、知らないことが知ってることに変わるのは、楽しいです」  ジャンゴの言葉に、ヴィヴィアンはどこか嬉しそうに再び微笑んだ。 「テスト、うまくいきますわ。わたくしが太鼓判を押して差し上げましょう」  タイコバンってなんだろ、とジャンゴは思ったが、すぐには聞き返さずに、ありがたくうなずくだけにとどめた。わからないことがあるなら、調べればいいのだ。それこそが、鉄の冒険王ジャンゴ・リーボリックがあるべき姿なのだから。  明後日のテストに備えて、ジャンゴは再び猛烈な勢いで本を読み始める。その姿を、司書教諭はそっと見守っていた。 -------------------------------------------------- ■ マスターより -------------------------------------------------- ・ご参加いただきありがとうございました。 -------------------------------------------------- ■ 登場PC・NPC一覧 -------------------------------------------------- 【PC】 ・葉柴芽路 ・ジャンゴ・リーボリック 【NPC】 ・ヴィヴィアン・フェイ